2015年6月6日土曜日

公法系第1問


第1                     設問1(以下憲法は法名略)

1 小問(1)

(1)    甲市シンポジウムでの発言、Y採掘事業に対する反対意見を理由に、A市がBの正式採用を拒否したことは、「信条」(141項後段)による差別として違憲無効である。

ア 反対意見の表明、Y採掘事業の反対意見はBにとっては、Y採掘という住民の生命身体に対する危害を及ぼし得る事業を安全性の確証なく行うことは許されないというBの世界観、人生観に関わるもので「信条」に当たる。

 Bは正式採用を拒否されているが反対意見を有しないDはBよりも勤務成績が下回るのに正式採用されており、Cのように暴力行為に及んだわけでもないのにCとともに正式採用を拒否されているから、「信条」を理由とした区別がある。

イ 「差別」は合理的理由のない区別をいうところ、上記信条はBにとり極めて重要であり、また政治的意見の表明であって、発表によって自己の人格形成に資し、住民の判断の資料となる自己統治の価値をも有する重要な権利であるから、区別は厳格にその合理性が認められなければならない。試用期間は解約権留保付労働契約が成立しており、正式採用の拒否は留保解約権の行使と解されるところ、解約権留保の趣旨目的が重要なものであり、信条を理由として留保解約権を行使することが解約権留保の目的に照らし、必要最小限度のものといえるかで判断する。

 本件での解約権留保の目的は、Y採掘という住民に危険が及びうる事業に関し危険を除去し、住民の不安感を取り除くため、そのような重要な職務に耐えうる人材かどうかを見極めるために信条を調査することにある。しかしY対策課は危険性関して住民の不安が生じるY採掘事業の安全性に対する信頼を確保するために設置されているところ、住民の安全性への信頼を確保するには賛成意見を持つ者のみではなく反対意見を持つものをも職員に加え、慎重な政策判断を期することが重要であり、Y採掘事業への賛否を考慮することに重要な目的があるとはいえない。仮に目的が重要だとして、Bは大学院でYに関し真摯に研究したうえで甲市シンポジウムで研究成果としてYの安全性について真摯に説明をしたのであり、Y採掘事業への信頼を損ねるものではないから反対意見を有しないDとの区別は不当である。またY対策課への信頼を確保するためにはCのような暴力的なものを排除する必要がありうるとしても、BはCと異なり、Y対策課でY採掘事業に関する安全性を高めるという真摯な動機から応募したのであり、Cと同列に扱って留保解約権を行使することは必要最小限度のものとはいえない。

ウ したがって141項後段に反する。

(2)    Bの持つY採掘事業に対する反対意見を考慮して正式採用を拒否したことは思想良心の自由(19条)を侵害し、違憲無効である。

ア BのY採掘事業に対する反対意見は前述のように、危険な事業によって住民に危害を及ぼしてはならないというBの世界観、人生観に関わる「思想」である。

 そして「侵してはならない」には「思想」を理由とする不利益取り扱いの禁止の要請を含むと解されるところ、A市によるBの反対意見を理由とする正式採用拒否は「思想」を理由とする不利益取り扱いである。

 思想良心の自由は内心にとどまる限り絶対的に保障されるから、反対意見という「思想」を有するがゆえに正式採用を拒否することは19条に反する。

イ 仮にA市がBの甲市シンポジウムでの反対意見の発表を考慮したにすぎず、「思想」そのものを理由とした正式採用拒否でなかったとしても、「思想」は発表されることによって表現の自由(21条)として前述の通りの自己実現、自己統治の価値を有するものであり、内心にとどまるだけではその価値を十分に発揮できないものであるから、外面的行為への制約であることをもって制約が小さいということはできない。そこで、制約の目的が必要不可欠であり、手段がやむに已まれぬ必要最小限度のものであることを要する。

 本件についてみるに、Y対策課の設置目的からしてBの正式採用拒否に際して上記事情を考慮した目的は、Y採掘事業という住民に不安を与えかねない事業に当たり、Y対策課として不安感を取り除き信頼を確保するため、不安をあおりかねない人物を排除することであると考えられる。かかる目的はY採掘事業を住民の理解を得たうえで円滑かつ安全に進めるために必要不可欠なものである。しかし、Bは甲市シンポジウムで反対意見を発表したのは安全性に関する真摯な動機からであり、

内容も研究成果に基づいたものでいたずらに不安をあおるものではない。したがってこのような発表を理由として正式採用拒否という手段をとることは必要最小限度のものとはいえない。

ウ よって19条に反し違憲無効である。

2 小問(2)

(1)    141項後段違反の点について

ア A市としては、考慮したものはBのシンポジウムでの発言であり、反対意見そのものでない。発言による弊害を考慮したものであり、「信条」を理由とした区別の側面がありうるとしても間接的付随的なものである。

イ 間接的付随的なものであり、制約が小さこと、公務員の採用に関しては地方自治体に裁量権が認められることから、解約権留保の趣旨目的が正当であり、その行使が目的との関連で合理的なものであれば許容される。

 本件についてみるに、目的はY採掘事業に関する安全性に対する住民の信頼を確保するとともに、公務員の政治的中立性を確保し、もってY対策課の業務の円滑を図ることにある。Y採掘事業は再生可能資源として将来のエネルギー源としての重要性が明らかであり、Yが埋蔵されているA市においては事業を円滑に進めることは極めて重要である。そうすると、かかる目的は正当である。そしてBは甲市シンポジウムという多くの市民の関心のある場でY採掘事業に関し反対意見を述べており、このような人物をY対策課に採用することはY対策課全体がY採掘に危険性を認識しているかのような印象をもたらしかねず、信用性を害し行身に支障を生じかねない点でCとも変わりなく、留保解約権行使の手段をとったことは合理的である。

ウ したがって141項後段には反しない。

(2)    19条違反の主張の点について

ア 反対意見を表明し公務員の政治的中立性を害することによりY対策課への住民の信頼、業務の円滑を害することを防止しようとするものであり、専ら外面的行為に着目したものであるから「思想」に対する制約は仮に存在するとしても間接的付随的なものである。

イ 制約は小さいから緩やかに、目的が重要でかつ手段が目的と合理的関連性を有すればよい。

 本件についてみるに、目的は前述のとおりY対策課という安全性を担う部門の信頼を確保し、公務員の政治的中立性を保つという重要なものである。手段はA市職員として採用しないというものにすぎず、思想を否定するようなものではない穏当なものであって、これにより上記目的が達成されるから合理的関連性が認められる。

ウ したがって19条に反しない。

第2                     設問2

1 141項違反の点

(1)     反対意見の表明を考慮したに過ぎないとしても、そこからBのYへの慎重な意見という、原告主張のとおりの「信条」が推知されるものであり、反対意見の表明を理由とする区別は「信条」を理由とする区別に異ならない。

(2)     141項の禁止する「差別」とは実質的・相対的平等の保障を意味し、合理的理由のない区別を禁止したものである。原告主張のとおりの「信条」の重要性、141項後段が原則として不合理な差別を列挙したものであることから、合理的な区別といえるためには、厳格に、目的が重要で手段が必要最小限度のものでなければならない。

 本件についてみるに、解約権留保の趣旨目的は、Y採掘事業という極めて資源政策上重要なものでありY採掘事業を安全性を確保しつつ行い、かつ住民の理解を得、公務員の政治的中立性を確保することにあり、かかる目的は重要である。しかしながら、Bのように穏当に意見を表明したに過ぎないものについて暴力的なCと同列に扱い留保解約権を行使すること、甲市シンポジウムはBが試用される以前のことであり、今後公務員としての立場をわきまえて住民の不安をあおりかねない意見の表明を控えるように注意することでも上記目的を達成できることから、必要最小限度の制約とはいえない。

(3)     したがって141項に反する

 2 19条違反の点について

(1)              A市はBの反対意見そのものを考慮したものではなく、甲市シンポジウムでの発言の経緯などを踏まえて正式採用を拒否したものとみることができ、「思想」そのものを理由とする不利益取り扱いではない。

(2)              もっとも思想良心の自由はほとんどの場合外面的行為を理由としてなされるから外面的行為を理由とする間接的付随的な制約であるとして緩やかに正当化されるべきでなく、思想良心の自由の重要性にかんがみ、目的が重要で手段が必要最小限度といえる場合にのみ正当化される。

     本件についてみるに、目的はY対策課への信頼、公務員の政治的中立性を確保することにあり、Y採掘事業という住民が極めて重大な関心を有する事業についてであるからかかる目的は重要である。一方で手段はBに対する留保解約権の行使であるが、Bは以前に甲市シンポジウムで真摯に反対意見を述べたのみであり、応募の契機も安全性の向上を目指すという真摯なものであったのであるから、公務員の政治的中立性を害するなどして公務の円滑等への弊害を生じる恐れは、暴力的なCと異なりいまだ抽象的なものであり解約権行使という最終手段を用いることは最小限との制約とは言えない。

(3)             したがって19条に反する。 以上

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