2015年6月6日土曜日

民事系第3問


第1                     設問1(以下民事訴訟法は法名略)

1 本件において反訴請求債権を本訴で自働債権として相殺に供することを適法とすることが平成3年判決に抵触しないか

(1)    平成3年判決は、相殺の抗弁について1142項により既判力ある判断が示されると、矛盾判決の恐れがあるうえ、相殺による簡易迅速かつ確実な決済への期待と債務名義の取得という利益を二重取りするのが不当であることを理由として142条の法理より、別訴訴求債権を自働債権とする相殺は許されないとしている。

(2)    これに対し、平成18年判決と同様に反訴請求債権を本訴で自働債権として相殺に供する場合には反訴は予備的反訴に変更されるとすれば、以下の理由により平成3年判決の理由は妥当しなくなる。

アまず、予備的反訴とは相殺の判断がなされた場合には反訴請求につき審判を求めないとするもので、相殺の判断がなされることを解除条件とするものである。そうだとすれば、相殺の抗弁について既判力ある判断が示されたら訴え取り下げと同様の効果が生じ反訴の訴訟係属が遡及的に消滅する。(2611項) この場合には相殺の抗弁についてのみ既判力ある判断が示される。一方相殺の抗弁が判断されない場合には反訴請求について判決により既判力ある判断が示される(1141項)。したがっていずれの場合においても既判力の矛盾抵触の恐れはない。

イ次に、反訴は別訴提起の場合と異なり、本訴提起を契機としてなされるもので、反訴原告としては債務名義を積極的に得ようとするものではない。また本訴提起を受けた場合、本訴被告としては本訴請求債権の存否につき十分な判断をなしえないまま応訴を強いられるにもかかわらず、既判力ある判断が示されることにより出損を伴う実質敗訴を前提とする相殺の抗弁の提出を常に期待することはできず、反訴提起によることもやむをえない。この点で利益の両取りと評価すべきではない。

(3)    では訴えの変更によらず、予備的反訴として扱うことは処分権主義(246条参照)に反しないか

処分権主義の根拠は私的自治の訴訟法的反映にあり、その機能は原告の意思尊重と審判対象明示による被告の不意打ち防止にある。審判形式についても処分権主義が妥当するが、原告としては反訴請求債権を本訴で相殺に供すとすれば債務名義を得ることは期待できないとしても当然と覚悟しており合理的意思に反しないし、相殺について判断が示されれば既判力によって反訴請求債権の不存在が確定するため自働債権の存否を巡る紛争の蒸し返しを防ぐことができ、請求棄却の判決を得る特別の利益はないから被告に不意打ちにもならない。したがって処分権主義に反しない。

2よって平成3年判決に抵触せず相殺に供せる。

第2                     設問2

1裁判所はいかなる判決をするべきか

(1)    まず第一審判決を取消し、改めて請求棄却する場合、第一審判決の相殺の抗弁についての既判力(1142項)は失われ、本訴請求債権の存在が控訴審判決の既判力(1141項)により確定される。

(2)    一方控訴棄却判決をなす場合、相殺の抗弁についての既判力は維持され、本訴請求債権の不存在が既判力により確定する。(1141項)

(3)    ではいずれの判決をなすべきか。

この点、控訴については処分権主義の表れたる不利益変更禁止の原則(304条)が妥当し、控訴人の不服の範囲においてのみ原判決を変更しうる。本件では原告が控訴しているが、原告の第一審判決に対する不服は本訴請求債権の存在を前提に相殺の抗弁を認めた点にある。そうだとすれば、これをこえて本訴請求債権がそもそも不存在であったことを認定することは、反対債権の不存在についての既判力が失われる点で不利益変更に当たる。

(4)    したがって後者の判決をすべきである。

2よって控訴棄却の判決をすべきである。

第3                     設問3

(1)Yの④⑤の主張は、Yの請負代金請求ができなくなった「損失」の下、Xが請求権を逃れるという「利益」を得ているというものである。

(2) ①~③は「法律上の原因」を欠くことについての主張である。1142項の相殺の既判力は基準時における自働債権の不存在についてのみ生じる。既判力の正当化根拠は手続保障の充足に基づく自己責任にあるところ、前訴の口頭弁論終結時までは攻撃防御方法を提出しえたのであるから、かかる時点までは手続保障がおよぶため、口頭弁論終結時を基準時とする。そうすると、前訴の基準時において損害賠償請求権が存在しなかったことは既判力により確定されないから①の主張が可能に思える。しかし既判力とは確定判決の後訴への通用力ないし拘束力であるところ、その消極的作用として基準時以前の前訴判断と矛盾する事由の主張が遮断される。そして相殺の抗弁は判断されれば既判力を生じることから訴求債権が存在する場合に初めて判断されるという意味で予備的抗弁であるところ、相殺の抗弁について既判力ある判断が示されている以上、損害賠償請求権の存在が前訴によって判断されており、これと矛盾する①の主張は既判力によって遮断される。

2したがってYの請求を既判力によって封じることができる。  以上

0 件のコメント:

コメントを投稿