2015年6月6日土曜日

労働法第1問


第1                     設問1

 1 XとしてはY1社との雇用契約が無効ゆえにY2社との間で黙示の雇用契約が成立していることを主張している。以下Xの主張とこれに対する反論と私見を述べる。

(1)    ア労働者派遣法は強行法規でありこれに違反するXY1間の雇用契約は公序良俗に反し無効(民法90条)である。

イそしてXY1間の契約が無効であるにもかかわらず、Y2の指揮監督下で労働することは考えられないからXY2間で黙示の雇用契約が成立していたとみることができる。

(2)    これに対しY2の反論と私見を述べる。

アY2としては、労働者派遣法違反は強行法規違反であるが、直ちに私法上の契約の効力を否定しない、と反論しうる。この点、強行法規違反の契約であっても直ちに公序良俗に違反するものではなく、私法上の効力を否定すべき醜悪なものであるときに初めて無効となるが、労働者派遣法違反の点は私法上の効力を否定するに足る醜悪なものではなく、公序良俗に反しない。したがってY1の反論は認められる。

イY2としては、XY2の間で指揮監督関係があったとしても、賃金その他労働条件はY1の就業規則に従って定められており、黙示の労働契約は成立していないと反論しうる。

 この点、黙示の労働契約が成立するためには、派遣元の存在が形式的名目的なものにすぎず、労働者が派遣先の直接の指揮監督関係の下にあり、賃金等労働条件も派遣先が実質的に決定している場合に認められるものと解する。

 本件についてみるに、確かにXはY2の社員から組み立て作業について直接の指揮監督を受けていたが、Yiの正社員もA工場に常駐しており、Y1の社員からも指示を受けていた。Xの雇用期間はY1Y2間の業務請負契約の期間と一致し、Xは業務請負の一環としてXを派遣していたことも認められる。Xの賃金等労働条件はY1が就業規則により決定していた。そうすると、Y1の存在は形式的名目的なものとはいえない。

 したがって黙示の労働契約は認められず、Y2の反論が認められる。

  2 よってXの主張は認められない。

第2                     設問2

1 XY1間の労働契約は平成25331日に終了することが予定された有期労働契約である。そこで、期間満了前の同年228日に解雇するためには「やむを得ない事由」(労働契約法(以下「労契法」という)17条)が認められる必要がある。

(1)     労働者保護の観点(労契法1条)から「やむを得ない事由」は狭く、労働者の不利益を考慮しても解雇することが真にやむを得ない業務上の高度の必要性が存することを要すると解する。

 また、解雇であるからには解雇権濫用法理(労契法16条)に服し、客観的に合理的なものとして社会通念上相当といえなければならない。

(2)     本件についてみるに、確かにY2が平成24年秋から業績が悪化したことで、Y1との労働者派遣契約を解約するに至り、これによりY1の財務状況も急速に悪化していた。そしてA工場以外への配属を拒むXをこれ以上雇っておくことはY1にとり上記財務状況の悪化をさらに促すことになり、解雇には高度の必要性が認められる。しかし、Xは後述のとおり次回の労働契約更新によって無期労働契約への転換を求め得る地位にあり、Y1は後述のとおり更新拒絶が許されないために解雇がなければ無期労働者としての地位を手に入れることができる。有期労働者にとり更新拒絶の不安から逃れることができる無期労働契約への転換の利益は極めて大きいもので、かかる利益を安易に奪うべきではない。Y1としてもXに対し再度就労場所の変更を促すなど他の手段によることも可能であった。

(3)     したがって「やむを得ない事由」は認められない。

2 よってXの請求は認められる。

第3                     設問3

1 Xとしては新たに有期労働契約の更新を申し込み、これに対しY1は労契法19条によって更新拒絶が許されないと主張しうる。

(1)     まずXは平成22101日に従前の業務請負契約の下での雇用契約を解消して労働者派遣法に基づいてY1と雇用契約を締結しているが、契約形態の変更以外、労働条件その他は従前と同一であり、同一の雇用契約を平成2041日から平成25331日までの5年間継続していたといえる。しかし、雇用契約は期間を6か月とするもので、いまだ更新は4回にとどまり、無期労働契約と同視することはできない(労契法191号)。

(2)     もっともXは従前更新を断られたことはなく、雇用継続に対する期待は合理的に保護されるべきものである。(労契法192号)

(3)     そして、Xは次の更新により通算雇用期間が5年を超えることになり、無期労働契約への転換(労契法181項)をもとめうることになる。

 そうだとすれば、Xの更新を拒絶することはXに著しい不利益をもたらすものであり、Y1の業務上の必要を上回るのであるから、更新拒絶に「客観的に合理的な理由を欠」く。

 また、就業場所の変更について真摯に説得をすることも可能であるのだから「社会通念上相当であると認められない」(労契法19条本文)

(4)     したがって更新拒絶は許されない。

 2 よってXの請求は認められる。 以上

 

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