2015年6月6日土曜日

刑事系第2問


第1 設問1(以下刑事訴訟法は法名略)

1捜査①の適法性

(1)                捜査①は強制処分(1971項但書)に当たるか。強制処分に該当するとすれば令状を得ていないことから令状主義(憲法35条、2181項等)に反し違法となる。

ア 科学的捜査手法による人権侵害の可能性の増大と捜査の実効性(1条)の調和の観点から、強制処分とは相手方の明示又は黙示の意思に反し、重要な権利利益の制約を伴う処分をいうと解す。

イ これを本件についてみるに、Pは平成27213日、Fマンション502号室のベランダにおいて、隣室である502号室の乙方のベランダで携帯電話により通話する乙の会話音声を3分間にわたり録音したものである。乙としては司法警察員に会話を録音されていると知ればこれを拒絶したと考えられるから黙示の意思に反する。乙は通話音声を人に聞かれることを欲せず、会話内容についてのプライバシー権(憲法13条)を有するが、Pの上記行為はかかるプライバシー権に対する制約である。しかしながら、乙が携帯電話で通話していた場所は室内ではなく、ベランダという、大きな声で話せば隣室等のものに会話を聞きとられる恐れのある場所で、公道に準じてプライバシーの保護が期待できない場所であるといえる。そして乙の声は隣室のベランダにおいても聞こえるようなものであったのだから、プライバシーへの期待は小さく、いまだ重要な権利制約があったということはできない

ウ したがって強制処分に当たらない

(2)                では任意処分(1971項本文)として許容されるか

ア この点、任意処分といえども何らかの法益を制約しうるので無制限に許容されるものと解すべきではなく、必要性・緊急性を考慮したうえで具体的状況下でそうと認められる限度においてのみ許容されると解す

イ 本件についてみるに、捜査①に先立って平成2724日、Vから金員を詐取しようとして甲が逮捕されている。本件はいわゆる振り込め詐欺事案であり、通常は金員の受け取り役である受け子の単独犯ではなく指示役のいる、組織化された犯罪である。そして甲が受け取りのために現れ逮捕された際、甲の携帯電話が押収されているが

甲の携帯電話には逮捕前後に頻繁に乙との通話記録が存在していた。こうした状況からすれば、指示役が乙であり乙が受け取り状況の確認をするために連絡したものとの疑いが強まっていた。加えて乙は乙方に一人で暮らし、仕事をせず最近は外出を控えて周囲を警戒するなど振り込め詐欺の指示役であることを疑わせる事情はほかにも存在した。振り込め詐欺の指示役の行為が専ら電話連絡のみにより行われる密航性の高いものであること、全容解明のためには会話内容から犯行の計画等を聞き出すことが有効であることからすれば、乙の通話の音声を録音する必要性は高度なものといえる。一方、乙が通話したのはベランダというプライバシー保護の要請の少ない場所であったこと、ICレコーダーで録音できるのは隣室のベランダにおいてPが耳で聞くことができる程度のものに限られ、通話の相手方の音声までも録音するものではなかったこと、録音時間が3分間という短時分にすぎないものであったことからすれば、プライバシー制約の程度は大きいものではなく、上記の必要性の大きさにかんがみれば、必要やむを得ない限度の相当なものであったといえる。

ウ したがって任意処分として許容される。

(3) したがって捜査①は適法である。

2 捜査②の適法性

(1)    前述の基準により強制処分該当性を検討する。捜査②は同月15日から本件機械を用いて10時間にわたり乙方の音声を録音したものである。乙としては司法警察員に自己の居室内というプライバシーの期待の大きい空間での音声の録音をされることを知れば拒絶したものと考えられるから黙示の意思に反する。Pが録音した音声は乙方居室という極めてプライベートな空間における私生活から生じる音声でありプライバシー保護の要請は強い。そしてPは隣室において聞こえる音声を録音したのではなく、本件機械を用いてはじめて聞こえる音声を録音したのであり、録音は鮮明なものであったというのであるから、かかる行為は乙方に盗聴器を仕掛けて録音する行為と変わりない程度にプライバシー侵害が大きい。しかも10時間もの長時間にわたり録音したというのであるから、録音対象はほとんど無差別に犯罪と無関係なものをも含み、著しい侵害といえる。そうすると捜査②は重要な権利利益を制約するといえる。したがって強制処分にあたり、具体的には五官の作用により事物の状態を認識する検証処分としての性格を有するから、検証令状(2181項)なくしてこれをおこなうことは許されない。

(2)    したがって捜査②は違法である。

2 設問2

1 本件文書および本件メモは違法収集証拠にあたり、証拠能力が否定されないか

(1)    この点、適正手続(憲法31条)の要請から違法な捜査によって収集された証拠に一律に証拠能力を認めるべきではない。しかしささいな違法に過ぎない場合にまで証拠能力を否定することは真実発見(1条)の見地から妥当ではない。そこで令状主義(憲法33条、218条等)の精神を没却するような重大な違法があり、当該証拠を証拠として許容することが司法の廉潔、将来の違法捜査抑止の見地から相当でないものについては証拠能力を否定する。派生証拠についてもそれ自体適法な捜査により得られたとしても一律に証拠能力を認めてしまえば排除即が骨抜きになりかねないので、違法収集証拠と密接な関連性を有し、これから直接得られたものについては排除される。そして別個の独立した適法な捜査が介在した場合には違法性が希釈されうる。

(2)    これを本件についてみるに、本件文書及び本件メモは同月16日のQによる取り調べによる甲の自白を含む供述を疎明資料とした乙の逮捕を利用した取り調べにより隠匿場所が明らかとなり、差し押さえられている。自白についてみるに、Qは甲に対し、検察官も自白すれば不起訴にするといっている旨伝えている。起訴独占主義(247条)の下起訴権限を有し訴追裁量(248条)を行使しうる検察官による不起訴の申し出は、身体を拘束された被疑者にとり重大な利益誘導となるから、乙の黙秘権(憲法381項、1982項参照)を中心とする供述の自由を著しく侵害しかつ自白法則(319条)を潜脱する。かかる違法な取り調べが、本来司法官として警察の違法な捜査をチェックすべき立場にある検察官の提案によりなされたことからすれば違法の程度は極めて大きく、令状主義の精神を没却する重大な違法が認められこれを証拠として許容することは相当でない。もっとも甲の供述により発付されたGマンション1003号室に対する捜索差押許可状によっては本件文書、本件メモは発見されていない。そしてこれらの隠匿場所は甲の供述により逮捕された乙の取り調べにより明らかとなっているが、乙は甲の自白を悟ったものの供述内容を取調官から知らされたなどの事情はなく、乙は甲に隠匿場所を伝えていないから乙としては隠匿場所を秘匿し続けることも可能だったのであり、むしろその方が合理的である。そうだとすれば乙の供述は別個の適法な取り調べにより任意になされたものであり、これに基づいて収集された本件文書及び本件メモは甲に対する前述の違法捜査から直接に得られたものということはできない。

(3)    したがって違法収集証拠として排除されない。

2 そうだとして、本件文書及び本件メモは伝聞証拠(320条以下)にあたり、証拠能力が否定されないか。

(1)    まず本件文書及び本件メモは、その紙片自体の証拠価値ではなく、記載内容が意味をもって証拠価値を有するものであるから供述証拠に当たる

(2)    伝聞に当たるか。そもそも伝聞排斥の根拠は、およそ供述証拠が知覚記憶叙述の過程を経て顕出されそのいずれの過程にも誤りが混入しやすいところ、書面に対しては反対尋問(憲法372項参照)による吟味をなしえないことにある。そこで、要証事実との関係で原供述の内容の真実性が問題になる場合には伝聞証拠にあたる。要証事実は当事者主義的訴訟構造(2566項、3122項等)の下、原則として検察官主張の立証趣旨に拘束されるが、証拠構造全体から見て立証趣旨通りの要証事実を認定することが著しく不合理であり実質的に見て伝聞証拠に関する証拠規制の潜脱といえる場合には、裁判所は実質的な要証事実を設定することができると解す。

 本件についてみるに、検察官主張の立証趣旨は乙丙間の事前共謀の存在であることがまず考えられる。かかる立証趣旨との関係では、本件文書はそこに示されたマニュアル通りの犯行が行われていることおよび右上に乙の筆跡でVの電話番号が記されていることから乙の本件への関与を推認させる。そして本件文書に丙の指紋が付着していること、本件文書は乙が作成したものではないと乙自身が供述していること、振り込め詐欺のような組織分担が進んだ犯行においては乙以外に計画立案者がいることは容易に想定でき、乙の上記供述は一定の信用性を有することから本件文書の作成に丙が関与したことが推認され、乙丙間の通話履歴の存在、本件メモには15日に丙からの電話があり示談金名目から会社の金を使い込んだことにする旨の変更があったことが示されているがかかる記載は甲の供述と一致するものであることを合わせて考慮するならば、本件文書及び本件メモの記載内容の真実性を問題とせずに事前共謀の存在を推認することが合理性を有する。したがって要証事実は事前共謀の存在と考えることができ、そうするとかかる要証事実との関係で本件文書及び本件メモは非伝聞である。

(3)    したがって伝聞証拠に当たらない。

3よって本件文書及び本件メモは証拠能力を有する。             以上

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