2015年6月6日土曜日

民事系第2問


第1                     設問1(以下会社法は法名略)

1 Bが乙社の洋菓子事業の陣頭指揮を執り、関西地方のデパートへの販路拡大を行った行為は35611号の競業行為に当たり、任務懈怠(4231項)とならないか。

(1)    「会社の事業の部類に属する取引」(35611号)に当たるか。

アこの点、同号の趣旨は取締役が会社における強大な地位を利用して会社の利益を犠牲にして自己または第三者の利益を図ることにより、会社の財産的基礎を危うくすることを防ぐことにある。そして取締役の業務は広範囲にわたる。そうだとすれば、競業行為には、会社が現に行っている取引のみならず、近い将来一定程度の確実性をもってなされることが予定されている取引・事業も含まれると解すべきである。

イ本件についてみるに、甲社は現在は関東地方で洋菓子販売を営んでおり関西地方では営業していない。しかし、平成221月ごろからマーケティング調査会社に市場調査を依頼するなどして関西地方への進出が近い将来予定されていた。Bが参与した乙社の事業は関西地方でので洋菓子販売であるが、甲社の用いるP商標と同様にブランド価値の高いQ商標を導入して平成224月以降Bが事業に携わったのであり、乙社は甲社と競業関係にあるといえるから、競業行為に当たる。

ウしたがって「会社の事業の部類に属する取引」(35611号)に当たる。

(2)    前述の競業規制の趣旨から、「ために」とは計算の帰属を意味すると解するところ、Bは平成223月に乙社の株式90%を取得しており、Bの経済的利益と乙社のそれは実質的に見て同一であるから、「自己…のために」といえる。

(3)    もっとも、Bは他の取締役であるAおよびCに対し、「今後は乙社の事業にも携わる。」と述べ、A・Cからの異議はなかったから、取締役会の「承認」(365条1項において読み替えてする3561項柱書)があったものとして同条に違反することにはならないのではないか。

この点、取締役会決議を要求した前述の趣旨、競業取引が会社に与えうる損害を考慮しての慎重な判断への要請から、「承認」は「重要な事実を開示して」なされなければならない。そしてかかる趣旨から、「重要な事実」とは競業行為の会社に与えうる損害等を判断するに足るものでなければならず、少なくとも事業の目的・規模・取引の概要を開示することを要すると考える。しかしながら本件ではこのような事実が開示されたことは伺えず、「重要な事実」の開示があったとはいえない。したがって取締役会の承認を欠き3561項に違反する。

(4)    よって任務懈怠となる。

2平成225月、甲社の工場長のEを引き抜いた行為は、会社の利益を図るべき取締役の忠実義務(355条)に違反し、任務懈怠となる。

4232項により競業取引である乙社の営業利益1000万円は甲社の「損害」と推定される。乙社が関西地方で甲社と同種の洋菓子販売で販路を拡大したため、甲社は関西地方への進出を断念せざるを得なくなり、調査会社への委託料500万円は無意味なものとなっているから「損害」にあたり、競業行為と相当因果関係を有する。甲社の工場長を引き抜いたことによって3日間の操業停止による300万円の「損害」が生じており、忠実義務違反と相当因果関係内にある。

4なおBは自ら競業関係にある乙社で競業行為を行い、甲社の関西地方進出、調査会社への調査委託についても知っていたものと思われる。工場長の引き抜きも自ら行っている。したがって任務懈怠につき悪意であり、4231項の「悪意」とは責任加重の趣旨より任務懈怠について損すれば足りる。

5以上よりBは上記損害すべての賠償責任を負う。

第2                     設問2

1第一取引は「事業の需要な一部の譲渡」(46711号)にあたり、株主総会特別決議(309211号)を要しうることにならないか。

(1)    事業譲渡における「事業」とは法文の統一的解釈の見地から21条以下における「事業」と同様に解し、有機的一体のものとして組織された人的物的財産であり、これを譲渡することによって当然に21条による競業避止義務を生じるものをいうと解する。もっとも特約で競業避止義務を排除することにより事業譲渡の厳格な規制を潜脱することは相当でないから、特約がなければ競業避止義務が生じるものであれば足りると考える。

(2)    本件についてみるに、第一取引の対象は洋菓子工場に係る土地建物であるが、第一取引以前の平成245月の時点で相手方の丙社に対し、洋菓子部門を売却しており、丙社が上記土地建物を洋菓子事業に用いることは明らかである。そして甲社は丙社と洋菓子部門の従業員の引き継ぎを約束しており、これにより丙社は従前どおりの洋菓子事業を行うことになる。そうだとすれば本件土地建物は有機的一体として組織された財産であり、「事業」に当たる。特約により競業避止義務が免除されているが、甲社は事業譲渡により特約がなければ競業避止義務を負うものであるから事業性に関わらない。

(3)    したがって事業譲渡に当たる。

2 第二取引は事業譲渡にあたるか。

(1)    前述のとおり「事業」の意味を解すれば、P商標はそれ自体有機的一体の財産とはいえないから、「事業」には当たらず、事業譲渡の規制を受けないことになる。しかし、一度に取引すれば有機的一体の財産として事業譲渡に当たるものを分割して譲渡することで事業譲渡に当たらないものとすることは、事業譲渡の会社に与える重大な影響を考慮して厳格な規制に係らしめた趣旨を潜脱することになる。そこで、複数の取引が一連のものとしてなされた場合には、これらを全体として見て事業譲渡に当たるとみるべきである。

(2)    本件についてみるに、まずP商標は本件土地建物を利用してなされる洋菓子事業に付加価値を与えるもので、これらの経済的効用を高めるものである。そして第一取引のあと第二取引は10日後というわずかな期間のあいだになされており相手方も同一である。そうすると、両者を一体と見るべきである。

(3)    したがって事業譲渡に当たる。

3 第一取引、第二取引を一体としてみると、両者を合わせた帳簿価格は25千万円と甲社の資産の「五分の一」(46712号)を超えるから株主総会での承認を要する。それにもかかわらず株主総会決議を経ていないことに問題がある。

第3                     設問3

1 本件は払い込みを要しない募集新株予約権の発行であるが、2392項により取締役会への行使条件の一任がなされている。かかる決議が許されるか。

(1)    この点、募集新株予約権の条件の定めを株主総会決議事項としたのは、既存株主の利益を損なうことを防ぐためである。そうだとすれば一任する旨の決議であっても、発行の趣旨が取締役により説明されておりこれにしたがって行使条件を委任する場合には既存の株主の利益を損なわない。

(2)    本件ではアドバイザーであるGに対するインセンティブの趣旨で発行がなされることが示されたが、甲社が上場することは一つの成果であり、このような場合にインセンティブを与えることは決議の趣旨に含まれていたと考えられる。そして上場条件といった、市場の動向を考慮した極めて専門技術的な判断が要求される行使事項については経営の専門家たる取締役会に委任することが合理的であり、既存株主の経済的利益にもかなう。

(3)    したがって、上場条件を合理的に定めることを内容として取締役会に委任したものとみることができ、決議はゆるされる。

2 もっとも上場条件を廃止して新株予約権を行使させることは許されるか。

 この点前述の一任の趣旨から、細目的行使条件の変更は許されるが、上場条件の定めは決議の内容そのものとなっており、上場条件なしで新株予約権を行使することは既存株主の期待を裏切るものであって委任の趣旨に反する。

したがって許されない。

4 では効力をいかにするか

 上場条件は決議内容となっていたのだから特別決議を欠く新株発行と同様に考えることができる。もっとも決議と異なり、行使に当たっては公告など株主の差し止め権行使の機会がないから、株主の利益は著しく害されるものといえ、無効事由となる。 以上

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