2015年6月6日土曜日

労働法第2問


第1                     設問1(以下労働組合法は法名略)

 1 Xとしては労組とYとの平成26710日の労働協約の変更が無効ゆえに、基本給5%カットは労働契約上の根拠を欠く(16条)。そのため労働契約に基づく賃金請求として5%分の請求をしているものと考えられる。

(1)     基本給5%カットは賃金面での労働契約の不利益変更である。そこでかかる不利益変更が許されるか。

ア労働組合は労働者の待遇改善(1条)を求めて活動するものである。しかし、我が国において労働協約は現実社会の経済・社会・文化情勢を踏まえて現実の労働条件を定めたものであり、労働組合と使用者の駆け引きのなかで決定されるものであるので、その一部のみをもって不利益ということはできない。

 そこで不利益変更は原則許されるが、前述の労働組合の目的から、一部の者にのみ格別の不利益をもたらすような内容の変更は許されないと解する。

イ本件についてみるに、労組はリーマンショック以降のYの事業縮小を受け、危機感を感じ、組合員の雇用を維持するために基本給カットに応じたのである。確かに組合員410人のうち170人のパートタイマーなどにとっては、正社員の雇用を維持するという労働協約の内容は何らの利益ももたらさず、全体として格別の不利益を強いるものとも思える。しかし会社としては人員削減の必要性が生じた場合、まずは有期労働者、パートタイマーなどから削減することに合理性があり、人員削減の必要性が存する現状において正社員の雇用維持義務のみを約束させることもやむを得ない。また、人員整理に当たって労組との協議を要求することとしたことで、パートタイマーらの雇用をも維持するに資すことになり、条項に合理性が認められる。さらに、基本給のカットは5%にとどまり、いまだ重大な不利益とまではいえない。

ウしたがって本件の不利益変更は内容的には問題ない。

(2)     もっとも、Zが労働協約の変更を「重要事項に該当しない問題」として大会を開催せず、各分会における単純多数決によったことは許されず、協約締結権限を有しないため、無権代理(民法116条)として無効とならないか。

この点、確かに従前の取り扱いでは「重要事項に該当しない問題」として扱われていたが、労働者の待遇という義務的団交事項のうち、賃金というもっとも労働者の利害関係が強い部分に関して、不利益に変更するからには、組合民主主義(1条)の観点から大会による討議を経るべきである。そこで、協約変更は「重要事項に該当しない問題」とはいえないと考えられ、Zは協約締結権限を有していなかったことになる。

したがって労働協約の変更は無効である。

 2 よってXの請求は認められる。

第2                     設問2

1 Xとしては戒告の懲戒処分は不当労働行為(71号)に当たるため、労働委員会に対し、戒告取消し命令、ポストノーティス命令(27条の121項)などを求めることが考えられる。

(1)     Xら「刷新派」の行為は「労働組合の正当な行為」(71号)といえるか。

ア団結権保障(憲法28条)の趣旨から、組合活動にも正当性が認められうる。もっとも勤務時間中の行為が「正当な行為」といえるためには、当該行為が労働者の職務専念義務に違反せず両立するものでなければならない。ここで、労働者の職務専念義務は、全神経を集中すべき義務までをも要求するものではなく、労務提供と支障なく両立すればよいものである。

 本件についてみるに、Xら「刷新派」の行為は賃金カットに反対することを行動で示し団結を図る組合活動である。Xらは全員がA工場の菓子製造ラインという外部の者に接することのない職務に携わっていた。加えてリボンは縦10センチメートル横2センチメートルと小さく特に目立つものではなく、また、着用時間も始業時間から30分間と極めて限られたものであった。そうするとXらの行為は労務提供と支障なく両立し職務専念義務に違背しない。

イもっとも、Xらの上記リボン闘争は労組執行部の承認を受けていないから、「労働組合の」行為といえないのではないか。

 この点、執行部の承認を得ずになされる行為は原則として組合の行為とはいえないが、組合民主主主義との関係で、執行部批判の行為も相当性がある限り「労働組合の」活動として保護されるべきである。

 本件についてみるに、Zは前述のとおり大会を開催せずに賃金カットを含む労働協約変更を断行しておりこの点についてXはZに問いただしていた。それにもかかわらず、ZはXに対し「刷新派」を解散させるように一方的に伝えるのみで、取り合わなかった。かかる状況下ではリボン闘争によって執行部批判をすることは有効であり、リボン闘争行為それ自体が相当性を有するものであることも合わせれば「労働組合の」活動として保護に値する。

(2)     「故をもって」(71号)とは不当労働行為の意思を有することを意味すると解されるが、客観的にみて反組合的意思の発現があれば不当労働行為の意思が認められる。

 本件ではYは「刷新派」に対して戒告という不利益な処分を行っており反組合的意思の発現とみれるから不当労働行為の意思が認められ、「故をもって」といえる。

 2 したがってXの請求は認められる。

以上

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